「進撃の巨人」 第138話までの感想 ~ノーベル賞と「世界の現実」と深い森~
「進撃の巨人」はノーベル平和賞、ノーベル文学賞に値する作品である。
とかいう、ちょっと大きな話は、最終話を読んでから発言しようと思っていた。
最終話を読んでないうちはまだ言っちゃいかん、と自粛。
でも、この世は何が起こるかわからないし、人はいつ死ぬかわからない。
そう思うと、早く言いたくなった。
もうひとつの理由は、単行本1巻から読み直してあらためて、この作品のすごさを思い知らされたから。
最終話を読んだからって、この気持ちが変わることはないだろう。
どんな結末であろうと私の評価は変わらない。
評価、と言えばこれまでに2回ほどガッカリしたことがある。
1度目は、「フクロウ」ことエレン・クルーガーが、継承前のグリシャに言った「ミカサやアルミン、みんなを救いたいなら」という台詞。(第89話「会議」)これによってファンタジー要素が色濃くなった。
もちろん巨人がいること自体「非現実的」だし、巨人が「何もないところから突然現れる」という事実(物語上の事実)が判明した時点でもうガッツリ「ファンタジー」なのだが。
この台詞と、それに続く「…さぁ わからない 誰の記憶だろう?」により「時間の不可逆性」を否定するという設定が確定、ショックだった。
何事も「程度問題」であるから、巨人の継承者は前の継承者の記憶(の一部)も引き継ぐという設定は許容できていたのだが…
「未来の継承者」の記憶を知ることができるなんて。それは許容しがたい。
2度目は、エレンとジークがグリシャの記憶を彷徨うあたり。
二人は「接触」を果たして「道」に来ましたからね~。そりゃ、過去にも行けちゃうんです。過去の人物にも彼らが見えちゃったりするんです。
グリシャに抱きしめられて涙するジーク…
それは長年にわたり私が心に描いていたシーン。ジーク・ファンの私にとっては、「叶えられるべくもない悲願」のはずだった。
だから、あのシーンが見れたことには感謝しよう。
よかったね、ジーク。もう思い残すことはないね…
と、心の準備をしておいて正解だったのか?
ジークは今度こそ本当に死んでしまったのか?
クサヴァーさんとも再会できたから、やっぱ今度こそダメか?
ところで、クサヴァーさんの名前って…「草葉の陰から」に由来してるよね。
おまけにクサヴァーさんの巨人が羊だから「草場」か?
フクロウの巨人がまたプロレス技(アルゼンチンなんとか)かけてるのも草ww
許容できないのは、エレンがグリシャの過去の行動に干渉したこと。
グリシャは始祖強奪を思いとどまった。なのにエレンが煽りに煽って、何かはわからないが「未来の記憶」?を見せたことにより、目的完遂した…
エレンはジークに言った、「あんたがオレを親父の記憶に連れ込んだおかげで今の道がある」と。
いま風に言えば、狙い通りの「世界線」になった、ってところか。
うーん、やはりここまでくると、許容範囲外だ。
しかし、書いたおかげで考えが一層ハッキリした。
エレンがグリシャに見せた記憶って、やっぱり単純に「地ならしによって平らにされた世界」だけではなさそう。
そうでなければ、グリシャは動かないだろう。
自分が頑張ってレイス一家を虐殺すれば、それから十年もたたないうちに息子は人類始まって以来最悪の無差別大量虐殺者となるのだ。
他でもないあのグリシャが、それで良しとするのか?
あの時点で、彼は既に十分すぎるほど知っている… 求めた自由は手に入らず、それどころか仲間も家族もすべてを失った男の途方もない無念を。
そのグリシャが、だ。エレンが見せた何かによって動かされたのだ。自分が始めた物語を途中でやめるな、死んだ妹や妻や仲間に報いるために進み続けろ、と言われて、再び奮い立ったのだ。
歴代の「進撃の巨人」継承者が「誰にも従わなかった」のは、自身の自由のためでもなく、王家のためでも、ユミルの民のためでも、エルディア復権のためでもなく、もっと途方もない、壮大な理想の世界を実現するため。
……であると思いたい。
じゃあ、グリシャがジークに「エレンを止めてくれ」と言ったのは何故?
理想の世界の実現が確約されたものではないこと、及び、エレン自身を含め犠牲があまりにも大きすぎること、その2つが理由だと思う。
エレンだって、自身の未来の記憶を見て以来、それに向かって突き進むことへの葛藤を常に抱えていた。
その葛藤がどれだけ大きかったかは作品読めばわかるって話。
ついでに言えば、その葛藤の深さに関わらず(あるいは、それゆえにか)、ミカサの答えが「家族」という言葉以外の何かだったとしても、エレンは突き進むことを選んだと思う。
理由は、「オレがこの世に生まれてきたからだ」。
うん、ジャンの言う通りだ。エレンはカッコいい。
そして… みんなが言う通り、バカだ。
エレンがどうしようが、巨人がいようがいまいが、この世界は残酷で、そして美しいのだから。
だから、エレンがミカサとふたりで逃げて残りの4年間を穏やかに暮らす選択をしても、誰も文句は言わないよ。
いや、誰もっていうか、読者は文句言わないよ。文句なし、だよ。
そして、読者に文句なしの結末を読ませたくないのが諌山さんなんだろうね。うん。
138話までで既に、十二分に読者の期待を裏切る容赦ない残酷ぶり。
最終話では、これ以上の「酷」が待っているのだろうか。
そう考えると、最終話を読みたいんだか、読みたくないんだか、わからなくなってきた(笑)
あ、これは既視感。この作品読む時はいつだって、こういう気持ちになった。
続きを読みたい、けど、読みたくない。
残酷だから、って理由だけじゃない。あまりに面白くて先を読むのがもったいない、そう思うことも多かった。
まあ、もちろん読みたい。読まずにはいられない。
ので、こうやって怠惰な自分の尻を叩きつつ「最終話を読む前の感想」を書いてます。
最終話を読んだ私には書けない感想を。
ああ、そういう意味では、最終話を読んだあとに「は!? ノーベル賞に値する作品!? 前言撤回!!!」ってなるのもアリか。
それが現実というものだ。
リヴァイが言ったように、先のことは誰にもわからない。
アニの言う通り、「普通の人間」と「正しい人間」とは違う。
世界は残酷で、そして美しい。
仲間とも戦わねばならない理由… それは、「世界は残酷だから」
そして、
森から出るんだ
出られなくても…
出ようとし続けるんだ…
私は、諌山さんが描いたのは「世界の現実」だと思ってる。
友人は、「ただでさえつらいことの多い世の中なのに、漫画でもつらいことばっかり読むのは嫌だな」と言った。
漫画に求めるものは人によって異なる。私は、普通の少年漫画とは明らかに一線を画すからこそ、「進撃の巨人」が好きだ。
だから、ファンタジー要素の比重が大きくなるのは残念に思えた。
しかし、一切のファンタジー要素を排除してしまったら、それはもうドキュメンタリーで、多くの人を引き付けることが難しいのもわかる。
自分が描きたいことを描くのか?人々のニーズに合わせるのか?ーーーー二者択一ではなく、その両方を目指すべき。これまた諫山botで読んだ話。
「時間の不可逆性」に反する設定。
それが、私にとって大きながっかりポイントであることに違いないが、それをさっ引いてもなお、私の「進撃の巨人」に対する評価はノーベル賞以下には下がりはしない。
というか、ほんと私個人のがっかりポイントなんかどうでもよく、むしろノーベル賞もらうくらいの作品にはすべからくファンタジー要素が不可欠なのである。
人はパンのみにして生くるにあらず。
人類はファンタジーなしには生きられらない。
オバマさんが平和賞もらったのだってさ~、あれはファンタジーなんだよな。なんかもう「※イメージです」みたいな。
「進撃の巨人」は「実際になされた仕事」なわけだし、そういう尺度じゃなくても人類への貢献度はオバマさんより断然上!
ネットの世界中の人々の書き込みを見てほしい。東洋のはずれの島国で、日本語というマイナー言語。そのハンデで、この反響。
「世界の人々に与えた深い感銘」は、川端康成の作品以上でしょう。漫画は文学ではないと言う御仁はクソをくらっていただきたい。
というわけで、平和賞、文学賞、どっちでもいい。
この漫画にノーベル賞ください。
たった今、気づいた。
別冊少年マガジン5月号に、「世界累計1億部突破! ハリウッド映画化決定のダークファンタジー!!」とあるのを。
そっか、本当に「ファンタジー」だったんだね、これ…
ハリウッド映画化… がっつり予想できたとはいえ、ね。これだけの作品をいったい何時間に収納するって言うんだろ?
映画にできるくらいなら、諫山さんは11年7ヶ月もかけて描かないよ。
botでは、「読者の数だけ読み方があって、それ全部正解」ってなこと言ってたけどさー。
第12話「偶像」でのピクシス司令官とエレンの会話、あれは「ハリウッド映画」(ズバリでなくとも、それっぽいもの全般)に対する痛烈な批判だろうと思えて愉快だった。
なのに…
まさか「フランダースの犬」みたいにハッピーエンドにしたり、「マーサの幸せレシピ」みたいに顔と髭の濃い黒髪のイタリア男を金髪碧眼さわやかイケメンにしたりしないでしょうね。
ああああ、リヴァイを長身にしたり…
もう、残念な映画になるっていう予感しかない。
今の私には、ファンタジーよりも現実の方がダーク。
人の意識なんてフェイクで、人と人との関係なんてそれこそファンタジーなのに、どうしてこうも人は我彼の思いやら「人間関係」とやらに振り回されるのか…
ピクシスの言う「理(ことわり)の違う者同士」の争いは、たとえ家族であっても絶えることがない。
私は、いつも同じところをぐるぐるまわっている…
この深い森から…
出られなくても、出ようとし続ける… それしかないね。